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池袋労働局へ戻る車中、富田はずっと不機嫌に口を閉ざしたままだった。
命令を聞かなかった達也の行動は、尊大な富田のプライドを傷つけてしまったようだ。
さらに、後部座席でさるぐつわを嵌めた中年男が延々と上げるうなり声も、富田のいらつきを増長させているのは明白だった。
こんな時は無理にフォローしない方が良い。
達也は仕方なくタブレットで本部のサーバにアクセスし、報告書を書き始めた。
ふと、男が言った「RATS」という名前を思い出す。
気になって検索をかけてみるが、「Not Authorized(権限なし)」が表示される。
どういう事だろう。
情報は存在するようだが、自分の権限では知る事ができないようだ。
富田なら知ってるかもしれないが、この雰囲気で聞くのは無理そうだ。
タブレットの電源を切り、車窓から熱気でゆらゆらと歪んで見える街の光景をぼんやりと眺めた。
昨日届いた骨の事が、頭から離れなかった。
あれは誰の骨なのだろう。
もしや、知人の骨だとしたら。
骨をDNA解析にかければ誰のものかすぐにわかるのだが、その場ですぐに没収され本部へ送られてしまった。
最悪のケースを考えていた。
ショウが誰かを殺して、その骨を達也に届けたのではないかと。
深手を追って富士の山中に消えたショウの行方については、未だわかっていなかった。
しかし、おそらく奴は生きていると、達也には確信めいたものがあった。
奴はいつか俺を殺しにくる、その恐怖感は常に背中に抱えている。
外部には達也の所属先や住居も極秘扱いだが、ショウなら何なく探し出すだろう。
見えないショウの視線を感じ、ぞっとした。
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