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「今働いているところは、どうなの? 続けていけそう?」
「そうだな……。他に行く所もないしな」
「そう。でも元気そうで良かった」
「愛美はどうしていたんだ? なんだか雰囲気変わったな」
愛美はそっと、達也の腕に触れた。
「あれから1年よ。そりゃ変わるって」
「なあ、ここじゃ何だから、どこか入って話さないか?」
「ごめんなさい。用事があるの」
腕から手を離し、すまなそうに、しかしぴしゃりと言った。
「……男か?」
「そうね」
まっすぐ達也の目を見て言い放つ。
達也の心の中に、冷たく重い月が沈んで行く。
愛美は立ち上がると、達也に向かって手を差し出した。
「会えて良かった。これからも元気でね」
「……」
手を握る。
その懐かしい温もりにずっと触れていたかったが。
そして愛美は手を振りながら、雑踏の中へ消えて行く。
達也はしばらく、そこから動く事ができなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
愛美は早足で歩きながら、バッグからスモールタブレットを取り出す。
そして、連絡先からひとつの番号を選ぶと耳に当て、相手が出るのを待った。
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