8. 管理区域

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「……とまあ、こんな感じだ」 濃い口髭を生やし、がっちりとした体格の隊員が近寄って来て、ひとりその場に残された達也に話しかける。 「今のは第1班。続いて2時と3時に別の班が出発する」 30台後半に見えるその男は、笑みを浮かべながら達也に手を差し出した。 「俺は保安局搬送部、第8搬送隊隊長の長内康介(おさない こうすけ)。君の新しい上司だ。よろしくな」 握手をしながら、達也は困惑した顔を長内に向ける。 「神条達也です。いきなり深夜に初出勤なんて、何事かと思いました」 「ははは。みんなそうだよ、最初は戸惑う。俺たちの仕事は夜中がスタートだからな」 「こんな時間に出発するんですね。どうりで保安局の人達を見掛けないと思った」 「そう、週に2度、水曜と日曜の深夜に再生対象者を3班に分けて搬送する。一番人目につきにくい時間を選んでいるんだ。だから局内ではミッドナイト・クロウ、つまり闇夜のカラス部隊とも呼ばれているのさ」 長内は人の良さそうな笑顔で話すが、達也は彼の日焼けした顔にいくつか目立つ傷痕があることが気になった。 「さて、俺たちは2時出発だ。君も早く着替えて準備した方がいい」 達也のダークグリーンの制服姿を眺めながら言う。 「保安局ではそんな制服は無用だ。君向けにゴツいのを用意してある」 達也は驚いた。 「えっ、いきなり今日ですか?」 「そうだよ。その方が心の準備に悩まなくて済むだろ?」 長内は、にやっと笑って達也の肩を叩いた。
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