12. 帰還

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建物の外へ出ると、冷たい木枯らしが茶色の落葉を宙に舞い上がらせていた。 ついさっきまで、幾分かの夏の気配が残っていたはずだが。 あまりの唐突な季節の変化に、改めて時間の経過を感じ、愕然とする。 入り口の門の脇に、黒いロングコートを羽織った女が佇んでいた。 一目で分かる。 かつてあれ程までも、会いたいと想い望んでいた愛美。 だが愛美は、今まで見せた事もない険しく冷やかな表情で、まっすぐ俺を睨みつける。 沙也が不安そうに、俺の腕を掴んだ。 「あなたは、達也なのね?」 「そうだ、神野達己はもういない」 「あなたたちが殺したのね、達巳を」 「彼は自分で命を絶ったんだ、愛美。 何で、彼を支えてやらなかった?」 愛美は建物を見上げて、ふっと白い息を吐いた。 「弱かったのよ、あの人は。ただ、それだけ」 「ずいぶん、冷たい言い方だな」 「私は何年もずっと達巳を待ち続けていた。あなたと偽りの日を送りながらね」 俺は言葉がなかった。 達也として僅かに残る本当の記憶でさえ、偽りのものなのか。 「でも、やっと帰ってきたあの人は、私の記憶にある達巳じゃなかった。こんな事態になったのは自分のせいだと、ずっと女々しく自分を責め続けてばかり。 私のことなんて気にも掛けてくれなかったわ。この辛さがわかる? 私がどんな思いで待っていたか、あなたにわかる?」 「……俺にはわからないよ、愛美。 だけど、俺も愛美との偽りの記憶をずっと胸にしまって、これまで生き抜いてきたんだ。辛かったのは同じだ」
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