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今そこにいるのは、愛美の姿をした別の誰かだった。
心に想い描いていた愛美は、そもそも最初から幻だったのだ。
「記憶なんていい加減なものだな。自分でいいように書き換えてしまう。達巳との記憶だってそうじゃないのか? 幻影のような記憶に縛られず、達巳と一緒にこれからの将来を考えるべきだった」
「殆ど嘘の記憶しか持たない、再生者のあなたならではの持論ね」
「ああ。だから俺は達也として、これから新しく生きて行く事に決めたんだ」
愛美は悔しそうに顔を歪めて俺を見つめた。
そして踵を返し、アスファルトにヒールの音を残しながら、足早に立ち去っていった。
落ち葉散る並木通りに、愛美の姿が徐々に小さくなって行く。
これで、良かったんだ。
「……おい、あのいい女はおまえの元カノなのか?」
呆然とやり取りを見ていた高村が、愛美の後ろ姿を目で追いながら俺を小突く。
「ええ、『元カノ』ですよ。本当の意味でね」
なんで真淵といいおまえといい、いい女が寄ってくるんだよお、と高村が叫んでいる。
燃え上がる沙也の視線を、横顔に痛い程感じる。
「……腹減ったよ、なんか奢ってくれ」
俺は透き通った空を見上げ、奇跡のように無数の木の葉が舞い踊る『新しい世界』へと、足を一歩踏み出した。
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