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「今日って確か恭介まだ帰ってきてないんだよな、やる気失せるわ。」
あれ?俺がいるって響一知らないのか。確か今日はバイトだから遅くなるって母さんに言ったんだっけ。でも、シフトが急に変わったからそのまま家に帰って来たんだけど…響一と何処かで行き違えたのかな。
「しかしこの前ちょっとやりすぎたかな。でも、あいつやたら動くしな…少し手でも縛ってみるか。それかちょっとだけキレた素振り見せてびびらせるか…」
この前は確かにひどかった。甘い時間の最中のはずなのに、彼女は叫び声に似た声を上げていた。正直俺は響一と彼女とのその時間中に壁から耳を離したことはなかったが、その日はあまりにも狂気染みた響一の声に壁から思わず耳を離してしまった程だった。
「早く恭介帰ってこないかな…」
そんなに俺に聞かせて楽しいか。お前ほんとに…
「恭介…触りたいな…」
え?今何て…
「おまたせ。」
「もう遅かったね。」
彼女がトイレから帰ってきた。彼女の足音が弾んでいるのが、壁からも感じることができた。
「ごめんごめん。キスしてあげるから許して。」
「最低3分はしてね。」
「何分でもしてあげる。」
この会話が終わった後、二人の声は聞こえなくなり、微かに聞こえる息遣いに俺の心はずたずたに切り裂かれていった。
でも自然と別の感情が俺の心にそっと寄り添ってきた。
そういえば恭介って、キス結構好きなんだよな。しかも3分って、連続でするには結構あるんじゃないのか。
俺は1秒でもいい。お前に触れたい。お前に触れてほしい。
でも、もしかしたら俺にはまだ知らない響一がそこにいるのかもしれない。
俺の気持ちを知ってるくせに、それに応えてくれない響一。
響一、お前の本当の気持ちは、いったい何処にあるんだ。
俺はその時、わざと机に足をぶつける準備をした。
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