舞姫

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思っていた通り、お湯をとってきたエリシュカは、バルコニーと隣接する私の部屋でハーブティーを淹れる準備をしながら、また話の続きへと、戻ってくれる。ハーブティーを淹れてくれるときのエリシュカは、私の話を聞いてくれるつもりだということを、私は知っていたから、そのまま話を聞いてもらうことにした。 「王様や王妃様は、踊ってはいけないと言っているのでしょう?」 「そう、だけど…」 「でも、アルシェは踊りたいの?お二人の意思に背いても?」 エリシュカの語りはとても優しくて、私の心を包んでくれる。それでいて、やっていいこと、やってはいけないことを教えてくれるから、私にとってはいなくてはならないとても大切な人。 「でも、それでも踊りたいの。私にはそれしかできないもの」 エリシュカには分かってもらいたい。私の気持ちを。 「アルシェ、あたしはね、踊ってほしくないわ」 そう言いながら、バルコニーから、私の寝室へと促す。そこに据え付けてある小さなテーブルに、ハーブティーと小さなお菓子が用意されていた。 エリシュカは私を座らせてから、向かいの椅子へと腰かける。 「どうして?」 「あなたが踊るっていうことは、『あの姿』で踊るっていうことよ」 その言葉を言いながら、エリシュカは顔を顰めて、嫌悪感を示している。 『あの姿』で私が踊ることが嫌なのは、分かってる。お父様もお母様もそれが嫌なのも分かっている。 「お願いだから、考え直して。ね?アルシェ、あなたがすることはないわ。きっと、今にあたしのお父様が他の『舞姫』を見つけてくる。だから、お願い。あなただけは、踊らないで」 「見つかるとは限らないじゃない。たった四人しかいない上に、捜し始めてもう何か月も経つし、これ以上、日照りが続くと、民がお父様に不満を抱いてしまうと思うの」 その言葉とは裏腹に、私は民が既に不満を抱いているのを知っている。食べることも飲むこともままならない状態で、民は極限状態の生活を強いられている。それに、お父様には一つの手段が手元にあるのに、それを行使していないのだから、不満は抱いて当然と言えば当然だ。 一つの手段──それは私。 今は私にしかできないことだから、国民は私がそれをすることを、強く望んでいる。
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