舞姫

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「ただ、決行は明日の夜よ。今日だと月の力が、少し弱いわ。あなたの姿を隠してはくれない」 「うん、分かってる。それに、舞がうまく舞えても、満月じゃないと、効果が少し薄くなってしまうの」 「そうだったの?」 「最近、気づいたんだけど…」 その言葉と共に、私は舞うときだけ身につけるヘアアクセサリーを念じて取り出す。 念じて何かを取り出すことは普通にはできない…らしい。 らしいっていうのも、それは私にはよくわからないことだから。 小さいころから、当たり前のようにヘアアクセサリーを念じて取り出せる私は、それができることを、疑問に思ったことはなかったし、誰もができることだと思っていた。 でも、この力があると知った両親は、それを隠すように言った。 だけど、そのときには、もうエリシュカにだけは話していたのだった。 これは舞姫として舞うときにだけつける装飾品で、自分が念じることで喚ぶことができる。 これは、舞姫だけが持つ特殊な『力』。こんなことができるのは、舞姫だけらしいのだけど、私は普通の人であったことがないから、実際のところはよく分からない。 でも、このヘアアクセサリーしか、念じて取り出すことができないのも、事実だから、本当に普通の人は何も出せないのかもしれない。 「月の満ち欠けと共鳴しているみたいなの」 ヘアアクセサリーは宝珠を繋いだもので、その宝珠の一つ一つに複雑な魔方陣が刻まれているというものだった。 小さな宝珠の中に魔方陣が描かれているため、細かい部分が目視できず、何が書いてあるのかわからない。王宮に仕える、魔法陣の研究をしている学者たちも、どんな魔方陣なのかは分からないと言っていた。 宝珠自体が輝いているのか、魔法陣が光を放っているのかはわからないけど、キラキラと光っている。 満月の日だと、とても強い光で輝いていて、目視なんてできない。だけど、今はまだヘアアクセサリーを見ることは可能で、強めの光ではあるけど、それはまだきれいだと思えるくらいの強さだった。
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