舞姫

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「だから、きっと満月の日の方が、効果があるんじゃないかと思うの」 「効果がどうとかはわからないけど、純粋にきれいね…」 エリシュカは感嘆の声を漏らして、ヘアアクセサリーに見つめる。 エリシュカは格式が高い家柄だから、宝石を見る機会も多い。 「これに勝る宝石を、あたしは見たことないわ」 神秘的と言えば適切なのか、それとも神々しいと言えば適切なのか、私にも分からないけど。普通の宝石とは何かが違うと思わせる魅力が、その宝珠にはあった。 自らが光を放つ宝石なんて、存在すること自体おかしいのかもしれないけど、このヘアアクセサリーを見ていて、恐ろしいと思ったことはないし、エリシュカもきれいとは思っても、変だとは思っていないようだった。 「いつから気づいたの?」 「日照りが続くようになってから、私、一人で考えていたの。私が舞えば、何かが変わるんじゃないかって」 「ええ、アルシェはよく思い悩んでいたものね」 「そのときに、これを喚んでみたの。そうしたら、いつもと違って、輝いていた。淡い輝きだったけど、確かに輝いてて、きれいだった」 今まで、どれだけ喚んでも、輝きは放っていなかった。 満月に近いときに喚んだことがなかったからかもしれない。 言い伝えでは、満月の夜に光纏う舞姫という記述があるから、『あの姿』を隠すために、満月で踊るという選択肢を、エリシュカはしたのだと思うけれど。 「まさか、自らが輝くなんて、思わなかったわ」 そういうエリシュカは心底驚いているようで、 「あたしたちが知らないことが、舞姫にはまだ隠されてるのかもしれない。言い伝えの知識しかないから、仕方ないのかもしれないけど」 と、悩ましげに呟いていた。
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