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茶色の毛玉がするすると器用に女の子の腕から肩まで登った。まるで勝ち誇ったかのようにニャーと鳴く。
軌道を少しだけ進んだ月が猫の漆黒のシルエットを浮かび上がらせる。なんだかシュールな絵のようだった。
「あの、ところで君、こんなところで何をしてるんだい?」俺は会話の糸口を引っ張ってみた。
「人…人を待っていたの……」女の子は途端にうつむき加減にそう呟く。厚みのあるパッツン前髪が月光を遮り、深い陰影を作っている。表情は読み取れない。
「人?」俺は周辺を見回した。こんなところで?もっと待ち合わせに相応しい場所があるだろう。
「友達かい?」
首を振り、応える女の子……
なんだかあまり触れられたくないようだ。
「それで?その人は現れたのかい?」
俺の問いの一つ一つに間が空く。
「そうね……あなたが現れたわ」
「えー!俺?……」
どういうことだろう?まさかの逆ナン?それともマンマの意味?俺はきっと素頓狂な顔をしていたのだろう。
「あはははは…………その顔やめて……」女の子が急に笑い出した。ククク……と腹を折り笑っている。何がそんなに可笑しいのか?理解に苦しむ。女の子は笑いがとまらないようだった。我慢出来ずに、あはははは……と盛大に笑い出した。
肩に乗った猫も可笑しげに揺れている。皆んなが笑ってるー。子猫も笑ってるー。ルールルルルー……いや、子猫は肩が揺れるので踏ん張っているだけのようだ。
俺もなんだか急におかしくなった。笑いは伝染するようだ。猫に片手を伸ばす。
「どうだい?どっかで飯でも?」とついでに誘ってみた。
「やめて。そんなんじゃないの」猫に触れようとした俺の手を女の子は邪険に振り払う。すっかり真顔に戻っている。え?さっきの爆笑どこいった?
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