月と猫と少女

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俺は払われた手を引っ込め、ちょっとした厭世感に囚われる不思議な自分を感じていた。 俺には時々こうした瞬間がある。 つまり、女の子に手を払われ、傷ついたのだ。信じ難いことに…… 自分で自分の繊細さが不思議だし、煩わしい。全く傷つくようなことではない筈なのに…… 俺はとりとめもなく考える。俺は何がしたいんだろう?何が楽しくて、何が悲しくて、何に傷つき、何に感情移入するのか? そこが問題だ。 俺はプロ野球ファンの熱狂的トラキチって奴らが羨ましい。だってそうだろう? 自分の人生と全く交差しないであろうプロ野球の1球団が6球団の中で優勝したことの何がそんなに嬉しいのか?俺には到底理解出来ない。だが、そうできるものならそうしたいと思う。道頓堀から俺も飛び込んでみたい。それだけ熱中できるものが見つかれば、道頓堀で死んだって本望だ。 俺が熱中できるもの……それはなんだろう。金だろうか?女だろうか?どっちにしろ俺は俗物だ。高い志など持ち合わせていない。 これまでの俺の人生はハタから見たら無計画でメチャクチャだろう。高校を途中で飛び出して、働いた。ついでに家も出た。特に家人と喧嘩したわけではない。高校も嫌いではなかった。 つまらない仕事を辞めアパートの家賃が払えなくなり、路上で寝たこともある。かと思うと、日本を飛び出した先のマニラのカジノで大勝ちしたこともある。なけなしの5万が3000万になった。本当だ。毎晩go-go-barで酒を飲み遊び回った。あっと言う間にスッテンテンになったが、もちろん後悔していない。
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