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猫と女の子に再会したのはそれから5年後だ。俺は相変わらず借金取りに追われていた。なかなか浮上のきっかけを掴めなかった。俺はまだ底辺をはい回っていた。
うまく逃げていた借金取りについに捕まった。
路地裏に連れ込まれた。胃の中のモノは全部吐き出した。それでもまだ足りないようだ。キッチリとスーツを着こなした男の拳が俺の腹に食い込む。オエ~。
「もう何も出てこないぞ」俺は膝に手をつき中腰になる。
「そうか。それなら仕方ない」スーツがポケットに手を入れた。
まさか。殺すつもりか?
死ぬのは怖くない。問題は死に方だ。情けない死に方だけは嫌だ。
突然、足元でニャーと鳴く声がした。茶色い毛玉が目に入る。いや、もうしなやかで優美なシルエットを身にまとっていた。
後ろの微かな気配に気づき、スーツが振り返る。あの女の子が立っていた。いつの間に……
俺も気がつかなかった。路地の入口で猫みたいに黙って立っている。
印象がまったく変わっていない。こんな状況だが、懐かしさが込み上げてきた。
そうか。そう言えば、ここはあの時の月光の差し込む路地裏だ。
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