プロローグ

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汗まみれとなり、長い黒髪が身体にべっとり貼りついた頃、ようやく森を抜けた。一気に視界が開ける。待ち合わせ場所に辿り着くまで誰にも姿を見られなかったはずだ。迎えの馬車が暗い山並みを背景に不気味に蹲っている。天空から放たれる月光が馬車を射抜くように照射し、くっきりとした影を地面に落としていた。 「さぁ……どうぞこちらへ……」御者がPEに気がつくと馬車の扉を開けてくれた。急いで乗り込む。と同時に、馬車はガタガタと一本道を疾走し始める。 この暗い道は何処まで続いているのか。しきりに身体が震えるのは衣服に染み込んだ汗のせいばかりではない。PEは暗い道の先を見詰める。 しばらく某所に身を隠し、出産後に進退を決める手筈だった。男の子なら王国に戻れるだろう。父はきっと許してくれる。 女の子なら…… 災いの血を生かしてはならない。これが王家の決まり事だった。この不文律を守ってきたからこそ、王は王でいられたのだ。父にも姉がいたらしいが神儀にかけられたと聞いている…… 馬車は疾走していく。PEには分かっていた。自分は何処までもこの暗い道を進んで行くことになるだろうと…… 王国に災いをもたらしてはならない。これは恐らく父の意志だ。自分の意志でもある。 この子と二人なら怖くない。PEは自らの膨らみ始めたお腹をさする。それに呼応するかのようにお腹の胎児が動いた。愛おしさが込み上げてくる。 夜が明け始めた。月が大きく傾き、馬車の行手の地平に没しようとしている。暗かった道は月光の道となり未来への一筋の希望を示してくれているようだった。 馬車は夜のしじまを破り、何処までも疾走する。月光に向かって……
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