月と猫と少女

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サッと道を開けるサラリーマン集団に肩透かしをくらい、俺はタタラを踏んだ。だが、なんとか踏み止まる。安居酒屋で摘んだネギマとポテトサラダとビールの味がこみ上げてきた。しゃがみこんでなんとかやり過ごす。 吐きそうで吐けない。目に涙だけが溜まった。 アスファルトの粗い目が店内照明に照らされて立体的に浮かび上がっている。ああ。なんという粒つぶだろう。アスファルト表面のザラザラとした不規則な構造が美しい。 俺はアスファルトに埋め込まれた目の荒い粒つぶに一瞬で魅了された。きれいだ。光と影の陰影が何か新しい物語の始まりを告げているようだった。 それとも、俺は酔ってるのか。そうだ。酔っているだけだ。酔っていることは間違いない。 俺はしゃがみ込んでアスファルトのツブツブを指先で数え始めた。人々の群れが迷惑そうにしゃがみ込んだ俺を避けて歩み去って行く。 557、558、559、560……誰かの膝が鳩尾に当った。イタッ!俺は声に出して抗議の意を示す。その誰かはチッと舌打ちして通りの向こうを渡っていく。 あれ?一体俺は何をしてるんだろう?数十分はアスファルトの粒を数えていただろうか?無限に数え続けなければならないではないか!
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