月と猫と少女

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俺はようやく立ち上がり、パーカーのチャックを閉めようと震える手で悪戦苦闘するが、うまくジッパーを合わせることができない。 春とは言え、まだまだ夜は寒い。 その時ミーミーとなにかの鳴く声がした。あれ?なんだろう。それはビックカメラの横のビルとビルの隙間の狭い空間から聞こえてくる。近づいてその狭い空間を透かして見ると、いるいる。 猫だ。酔った頭をめぐらせる。 茶色い小さなフワフワな毛玉が微かに震えている。 「おいでおいで。」手を伸ばしてみるが、邪魔な看板に阻まれて手が届かない。怯えているようだ。何かなかったっけ?ポケットをまさぐるとノド飴が出てきた。 猫ってのど飴食うんだっけ?まあ、いいや。 「ほらほら。」試しに、ノド飴を手のひらに載せてみた。誘い出してみるも上手くいかない。 みゃーみゃー鳴く声が大きくなった。 「ほら、おいでおいで……」
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