月と猫と少女

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幅1m足らずの路地に絶壁のように屹立するビル。その隙間からちょうど大きな満月が顔を出していた…おお。 正面から俺を見据えるように神々しい光を放っている。 まるで何かの舞台装置のような小綺麗な光の演出に俺はつい動きを止め、見入る。 おそらくここは土地区分の狭間で人が通ることを想定しない隘路となったのだろう。街灯すら設置されておらず、都会の華やかな灯りが全く届いていない。見捨てられたかのような暗く沈んだ一角。 その寂しさを埋めるかのように月の光が優しく路地を満たしていた。 。路地の石畳が月の光を反射し嬉しそうにピカピカと輝いている。 月明かりがこの路地を訪れるのは1日数分のことだろうか。いや、地軸と月の公転軌道は直角関係にないわけだから1年の中のほんのこの時期。この時期の中の数分と考える方が適切だ。 マヤ文明のナントカという遺跡に春分の日と秋分の日だけに現れる蛇の影の奇跡を思い出した。 その時、俺は気がついた。誰もいないと思っていた路地に満月を背に女の子が1人しゃがみ込んでいる。小さな身体。しかし、月明かりによって引き伸ばされた影が俺に向かって大きく伸びている。 何をしているんだろう。酔ってるのかな?先ほどの俺みたいに……まさか、アスファルトの粒を数えている訳じゃないだろう。女の子らしき人影はしゃがんだまま動かない。 長い黒髪に隠れて顔は見えなかった。満月の明かりに照らされた黒髪がただ、ツヤツヤと輝いている。 女の子がミーミーと鳴いた。 え?
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