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親・きょうだい
政が言った「明日」は、そのまんま、読んで字のごとし。
近い将来の約束ではなく、今すぐ、という意味だった。
えええ? と加奈江は焦ったが、政はすましたもの。
「はい、って言ったじゃないか」と言う。
言った。言いました。けど!
「私たちはまだ学生だし」
「うん、だから苦労かけるかも、と。でも、仕事の目処もついたことだし」
「けど、それはお教室を任されるかも、ってことでしょう?」
「ああ、そうだ。言い忘れていたけど、今度の展示会、俺、特賞取ったんだ。今までより多く賞金も出るし。子供の頃から貯めてたし、今までもらったのも手つかずで貯金してるから、無一文でもないよ」
と言いつつ加奈江へ差し出した通常の残高は、学生にしては破格で一財産と言ってよかった。
すごい、ここまで貯めたの?
妙なところでしっかりしている。加奈江は政の知らない一面におどろく。
いや、しかし!
「学内でも結婚してる学生はいるんだし」
「それはその通りだけど」
「嫌なんだ」
「え?」
「お前、本当に気づいてないのか? 同じ学部の、誰とは言わないが、あいつらに人気があるって……狙われてるって」
目をぱちくりさせて彼女は応える。またいつもの我が儘だわ。
「まさか、そんなはずないわよ」
「ある」
「ありませんって」
「俺がある、って言うからあるんだって!」
ムキになって言う彼はまるで子供のようだ。そして、結論をごにょごにょと言葉をにごすのもいつものこと。
「とにかく……このまま、お前を大学に置きたくないくらいなんだ、わかってくれよ」
それこそ子供が我が儘でごねているようだ。でも。
彼が彼女に、何かを強く願うことはあまりなかったし。
加奈江も望んでいた未来だったから。
今すぐという彼のプロポーズを受け入れた。
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