【6】加奈江は嫁ぐ

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ふたりの交際期間は長い。ご近所でも評判のカップルで、身内はふたりを見守っていたが。 結婚となると話は別だ。 「まだ学生でしょう!」と想像通りの反応をした加奈江の両親へは、「私より遅いじゃないの」という姉の鶴の一声が効いた。 「加奈江みたいに白けてて、学士様になっちゃう女は、嫁のもらい手が見つかるかどうかもわかんないんだから。反対して話が流れて恨まれても知らないわよ、まったく知らない人でもないんだし、加奈江をもらってくれるんだもの、ありがたいくらいじゃないの」 と、応援してくれているのだか、けなされているのだかわからない言い様に、加奈江はどう反応したものやら迷ったが、姉なりに喜んでくれていると思い込むことにした。 「まだ学生なのに!」強く反対したのは政の母だった。 至極真っ当な反応だと加奈江は思う。 ご挨拶にと向かった彼の生家はとても広く、わざわざ師匠のところへ行かなくても書を書く部屋がいくつも作れ、お教室を開業するとしたら、生徒さんに困ることはないほどの絶好の場所にあった。 あらゆる環境が整っている。 けれど、ここにいたくない理由が彼にはある。 加奈江は、政の隣で借りてきた猫のように座りながら、彼の両親をつぶさに観察した。 彼の父である尾上教授は、加奈江を見て、おやという顔をした。 ――私のこと、知っているのかしら。 初めて会う顔をして礼をした。加奈江を見る教授の表情は柔らかく、事の推移を愉快そうに見守っているようだった。 やっぱり、政君と似ている、と加奈江は心の中でひとりごと。
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