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スマートフォンのアプリに、未読の件数がたまっていく。
あえて見ず、そのまま放置しているとどんどん数字がカウントされていった。
あー、もう。うるさいうるさい。
彼女はホームボタンを長押しした。
アイコンに黒いペケマークがつき、アイコンがぶるぶる震える。
アプリ、消しちゃえ。
黒バツをクリックすると。LINEのアイコンはあっさり画面から消えていた。
メールも、無視しちゃえ。
主電源を落として。真っ黒になった画面の先、窓の向こう側では、ぱかん、と非常口が開いている。
蓋を跳ね上げるように開いた扉から、複数の手が伸び、手を振っていて、それ以上の人の手が、こちら側でも振られ続け、双方止む気配がない。
つい、右手を上げ、ふりふりと。呼応するように手を振ってみる。
何してるのかしら。
ああ、きっとお掃除中なのね。
そうそう、二階席があったのだった、ジャンボジェットには。
すっかり忘れてたわ。あんな風にドアが開くことも。
無心になった瞬間だった、声をかけられたのは。
「水流添(つるぞえ)君?」
ここは空港、九州は長崎、地元民ではない彼女に、顔見知り程度はいても、軽く声をかけるような知人縁者はいない。
え、私ですか? と確認するまでもない。
一般的とはいえない名字の人間が、そういるとは思えないから。
そして、はい、私が水流添ですが何か? と問う必要もない。
この声にはなじみがあるから。
「奇遇だね、君がここにいるとは。どうしたの」
高遠秋良(たかとう あきら)は振り返った先にいる人物に答えて言った。
「こがらし君?」
『こがらし』と名指しされた人物は、憮然たる面持ちで立っている。
「そろそろその呼び方は止めて欲しいんだけどな」
「あら」
『水流添君』は肩を小さくすくめた。
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