追い風1000km・3 お母さんのおでかけ

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秋良と五十嵐は同じ年に入社した同期の桜だ。 立場の違いこそあれ、入ったばかりで右も左もわからなかった時期から今まで、啓発したりされたりする関係は続いた。 社会人は同時期に入社した者同士の結束は堅い。事あるごとに動向が気になったり、時候の挨拶以上の往来があったり。社から離れた者とも連絡を取り合い、人生の節目節目で力づけたりつけられたりする関係は長く続く。 今、秋良は管理職に限りなく近い位置におり、五十嵐はベテランパイロットとして職務に邁進している。 パイロットという職種は航空ファンにとっては雲上人に等しい憧れの象徴だ。中には各エアラインの機長のリストをwebで公開しているマニアもいる。ファンクラブが存在する機長もいて、折に触れてファンの集いが催されるくらいだ。 そこまでの有名人ではないにしろ、五十嵐もそこそこ名が知れている存在。航空ファンに気づかれてしまったようだった。 「それを言うなら君もでしょう」 「私?」 「あー、ほらほら。写真撮ってる人がいる」 「あなたを、でしょ?」 「いや、多分、君の方だと思う」 パイロットが崇められるように、客室乗務員も彼らの標的になる。秋良は乗務歴も長く、珍しい姓も相まってそこそこ知られている存在だ。 「あなたこそどうしてここに? ここにいらして良かったの? だって」 秋良は言葉を飲む。その理由は、ただひとつ。ふたりの職種と待つ場所にある。 五十嵐は旅客機の操縦士、秋良は客室乗務員。同じ会社の同僚だ。そのふたりが自社ではない他社便の搭乗口前にいるのだ。 「これに乗るんだよね」
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