追い風1000km・3 お母さんのおでかけ

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顎をしゃくった先にある前面ガラス張りの向こうには滑走路が、そしてこれから乗る航空機が駐機している。 「ええ」 「競合他社の乗務員がふたり揃ってご搭乗、ってツーショット画像が流れたらどうする?」 「どうもしませんわ」 「ツーショットでも?」 「ええ」 「僕はうれしいけどね」 さらっと言う五十嵐の言に、秋良は小首を傾げる。 「ここで会えたのも、奇遇以上の縁があるような気がしないかい? 「しません」秋良はすぱーんと直球で返す。 「そうかな」 「そうですわ」 「相変わらずだね、君も。お堅いところもね」五十嵐は苦笑した。 「僕はこれで東京へ帰るところだけど君は?」 「同様ですわ」 「さっき、これから降りてくる君を見かけた気がするんだけど。気のせい?」 「気のせいではありませんの……」 決まり悪そうに目を伏せた秋良は背後に目を配る。 時は師走の第二日曜日。場所は長崎空港。搭乗を控えた乗客がごったがえす構内は普段とは違った熱気に包まれている。 事実、彼女が目をやった先ではセレモニーが開かれ、黒山の人だかりができている。遠くから司会のアナウンスと拍手の音がそれに続いた。 そちらの方を気にしつつ、秋良は視線を真正面、滑走路側へ転じた。 これから、ここに集う乗客やそして秋良を乗せて飛ぶ、航空機。 真正面から見る姿は、丸顔の一般的な航空機とちがい、少し面長で大顔だ。ぺこんと飛び出たこぶのような先端が特徴の、通称ジャンボジェット、747が止まっている。
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