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見返す夫は含み笑いを隠さない。その時、彼の背後から、風にのって声が届いた。
「……だから、父さんにまかせとけば大丈夫なんだって。言っただろ?」
「解せない! 俺、投げ飛ばされ損か?」
「ねえ、チューするかな、チュー」
――かつがれたのね? もう!
彼女はごつんと彼の胸元に顔を埋め、彼は彼女の頭に顎を乗せてぽんぽんと肩を叩いた。
今の話、聞かれていないわよね! 夫のことだから大丈夫だと思うけど!
もう母さんは大丈夫だぞ―と、夫は呑気に声を上げた。おそらく片手をあげて招いている、子供たちを。
「聞こえてるわよ、一馬、双葉、三先!」
頬の赤みを隠すように、秋良は振り返った。売店の影から、へたくそなかくれんぼをした息子たち三人の姿が現れる。
「へへ、気づいちゃった?」
まだまだ声変わりには程遠い、女の子といっても充分通る三先が駆けてくる。
「ごきげん、なおった?」
「さあ、どうかしら?」
「子供に心配させといて。その言い草はないよなーっ!」双葉は不平を漏らす。
「俺、腹減った。メシ食いに行こうぜ!」
「あら、親に向かってその口の利き方はないわ。残念ね、せっかくこれもらってきたのに。いらないのかしら?」
つんと澄ました顔で、ショッピングバッグから取り出した一葉の絵ハガキ。蒼い空をバックに飛ぶ飛行機の裏へ、同じ道を志す少年へ向けた先達からのメッセージがしたためられている。
「くれ!」手を差し出す次男へ「さあ、どうしようかしら」と母はつれない。まあまあ、と父は間に入った。
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