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あたし、藤堂みのか。
近所の小学校を卒業し、近所の中学を卒業し、近隣の高校に通う何の取り柄もない平々凡々な17歳。
高校卒業を間近に控えた12月の終わり、あたしは親友の鏡花からある提案をされた。
「ねえみのか、卒業旅行行ってみない?」
鏡花は根っからの旅行好きで、趣味といってもいいほど毎月どこかに出かけている。
うちの高校はアルバイトができるところだから、お金があまりない高校生でもなんとかして旅行に行くことはできる。
「卒業旅行かぁ、あたし考えたことなかったなあ」
あたしは、学校の帰り道、近所のコンビニでコーヒーを買いながら鏡花に呟いた。
「思い出の作れる場所に行きたいって思うんだけど、どうかな?」
鏡花はそう言うが、あたしはアルバイトをした試しがなく親から小遣いを受け取って日々の嗜みにプラスしている。
例えば、飲みたいコーヒーを買ったり気になる本を手にとってみたりそういったことのためにだけお金を使っていたあたしは、彼女が言い出すまで旅行のりょの字すら頭に思い浮かばなかった。
「う、うんそうだね。行けるといいね、鏡花ちゃん」
あたしはお金がないという現状のせいで、親友を傷付けないように言葉を選ぶ。
きっとあたしの頬は引き吊り、冷や汗が出ていたはずだ。
「みのかあんたさあ、アルバイトとかしてないの?」
鏡花はたまにあたしの心に突き刺さる言葉をかけてくる。
読心術でもあるんじゃないかって、思ってしまうぐらい彼女のそれはすごかった。
「ア、アルバイト?そ、そろそろしよっかな~な、なんて」
「ほらやっぱりあんたアルバイトしなさいよ。大学行く前の、いい経験になると思うよあたしは」
ははは、と、きれいな顔をくしゃっとさせた鏡花の笑顔はあたしの心を動かした。
やっぱり、鏡花ちゃんは笑顔が似合ってる。
そんな彼女から笑顔を消したくない。
そう思ったあたしは、コンビニを出てコーヒーのタブを開けると、それを一気に飲み干した。
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