彼との始まり

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開館直後の図書館にはまだ職員しかいない。 スマホの電源をマナーモードにしてから好きな作家の本など手に取ってみる。 ・・・と、一人の背の高い男性の姿が目に飛び込んで来た。 隣りの小説の書棚で同じく一冊の本を手に取っている所だった。 横顔が・・・ 美しかった。 彼の周りを包んでいる空気そのものが静かで凛として、優しく感じられた。 男の人を美しいと思ったのは初めてだ。  人間というのは時にとてつもなく大胆な行動を取るものだ。 私はもう少し彼の近くに移動すると、たいして興味もない本を手に取りながらまた横顔を見つめた。 すると当然ながら彼もそれに気付きこちらを見た。 (どうしよう、どうしよう・・・) だが既に二人は見つめ合っている。 もう二度と会う事などないだろうと思い切って話しかけてみた。 「あの、少しお話ししたいんですけどいいですか?」 彼はもちろん驚いた表情で、でもすぐに 「いいですよ」 と返事をしてくれた。 身体の中に心臓がいくつもあって、それらが一度にドクドクと脈打っているかのような感じがした。
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