26人が本棚に入れています
本棚に追加
館内では声が響くからと近くの海まで行く事になり、肝心の本を借りる事もなく外に出てから彼の車に乗り込む。
誰かに見られてはいけないと顔を覆いながら助手席に座るがこの時まだ彼は私が既婚者である事を知らない。
逆ナンされた・・・くらいの気持ちでいたのだろう、静かに話しかけてくる。
「よく来るんですか、図書館」
とか
「市内ですか」
とか、そんな簡単な質問に軽く答えながら海に到着し彼はエンジンを止める。
波の音だけが響く車内。
話をしたいと言って誘ったのは自分なのにいざとなると何を話したらいいかわからない。
恋愛経験は多い方ではないし、今の夫ともお見合い結婚だ。
男性慣れしていないくせになんて事をしてしまったのかと後悔しきりで真っ赤になっている私に彼がそっと言った。
「結婚・・・されてるんですね」
「え?」
「あ、結婚指輪が」
慌てて左手を隠すが時既に遅し。
だが隠しておく訳にも行かず小さく頷き
「ごめんなさい」
と謝る。
「謝らないで。綺麗な女性が入って来たなって。まさか声をかけられるとは思ってなかったけど、嬉しかったんだ」
思いもしない言葉に恥ずかしさと嬉しさが胸の中で交互に波打ち揺れた。
最初のコメントを投稿しよう!