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『旅の恥は掻き捨て』という言葉がある。
ならば、
『旅の出逢いも掻き捨て』で良いはずだ。
その場限りだからこそ、
相手がキラキラと輝いて見え、
またその思い出はいつまでも心の中で、
色褪せることなく輝き続ける。
1つの恋が終わるたび、
宮原(ミヤハラ)久美(クミ)が思い出すのは、
そんな恋だった。
「あっち……」
「ちょっと! 聞いてるの?!」
耳元で怒鳴らないでほしい。
そうじゃなくたって、
オバサンの声は頭に響くのに。
梅雨明けが、今か今かと待たれる季節。
まだ宣言はされていないのに、
都心の気温は急上昇し、
気が付いたら猛暑日と呼ばれる温度にまで、
辿り着いていた。
照りつける太陽が、窓越しにも痛い。
雲ひとつない青空は、
あの日に見た南の島と同じ色をしていた。
「泥棒猫のくせに!」
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