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包み込まれる笹木のあたたかさに、思わず身をゆだねたくなった。でもこれに、縋ってしまったら――いなくなったときにきっと、ひとりで立っていられなくなる。
容易い予測に躰が瞬時に反応し、全力で拒否ろうと両腕に力を入れた。
「俺はずっと、ミノの傍にいます。だから大丈夫ですよ」
――まるで、心の声を聞いたみたいな返事。
「お前なんていなくても、僕は」
「いいですよ、突っぱねて。それでも、好きでいさせてください」
「そんなの……迷惑に、決まってる、だろ。ウザいんだ、よ……」
否定しまくる言葉を次々と吐いているというのに、そんなのお構いなしに、ぎゅっと抱きしめられてしまった。
「俺を遠ざけようとすればするほど、アナタへの愛がどんどん深くなるだけだから」
「やめろよ……。そ、んなこと、ない……のに」
「見えないものだから、不安になるのは当然ですよね。だから、こうやって証明してみせますから」
そんなもの証明できるがワケないだろうと反論しかけた唇を、笹木の唇が重なったせいで、言葉を止められてしまい――。
「ンンっ…あ、ぁっ」
躰も心もすべて、飲み込むようにキスしてきた。
「寂しくないように、傍にいてあげます。そんな顔しないでください」
(――何だ、これ……胸が熱くて、変になりそうな感じ)
「……笹木」
「ミノ、安心していいですよ。だから――」
優しい表情を浮かべながら、僕の顔に頬を寄せようとしたときだった。玄関から、何かの物音が耳に入ってくる。
「おい、金属音がしてるぞ。カギを開けるような?」
「ああ、あの人が来たんです。別れ話をしたら家に置いてある荷物を、あとで取りに来ると言ってましたから」
笹木の彼女に、直接逢える――。
くっついている体勢から離れようと笹木の体を押したら、更にぎゅっと抱きしめられてしまった。
「おい……」
「いいんです。もう、隠す必要はないんですし」
「何を言って――っ!?」
思わず、言葉を飲み込んだ。リビングに入ってきた相手と、バッチリ目が合ったせいだったが。
笹木はソイツに背中を向けていたから分からないだろう。僕と目が合った瞬間、ソイツに刺し殺されるかと思うような、すごい眼差しで睨まれてしまった。
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