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その後、僕はお代わりすることなく食事を終了した。
他のふたりはカレーを堪能すべく、しっかりお代わりをし、それなりに会話を楽しみながら食べ終えた。その様子がどう見ても、別れるふたりには到底思えない。
視線を目の前から逸らさず、そんなことをぼんやりと考えた。
ここに安田課長が来てから、ずっとふたりの様子を窺っていたが、修羅場と化しそうになったのは、一番最初に僕と目が合ったときだけ。
見たことがないくらいのゾクッとする冷たい眼差しに、全身が竦んでしまったけれど、それ以降はまったく顔色を変えず、僕や笹木と対峙していた。
こんな状態ならもっと揉めてもいいはずなのに、普通じゃないその感じは、違和感ありまくりだ。
視線を目の前から、テーブルの上に置かれたコーヒーカップに移す。コーヒーに映っている自分の顔は、不安満載にしか見えなかった。
(――なんて、情けないツラしてんだろう)
「さて、最終弁論でも聞いてやるか」
安田課長の声で、ゆっくりと顔を上げる。
僕が100%悪いのは、明らかな事実。下手な言い訳をしないように、慎重に口を開く。
「情状酌量くださいなんて言いません。笹木に手を出した、僕が悪いんですから」
最悪の事態で逃げられない――だからこそしっかりと向き合って、正々堂々としてやろうじゃないか。
奥歯をきゅっと噛みしめて、普段している顔を作ってやった。
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