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「俺は、香坂先輩に憧れていました。ずっと好きだった……」
「なのに、私と付き合ったのか?」
「そうです。おふたりはどこか、似ているところがあったから」
僕と安田課長の、どこが似ているというんだ? 年齢だって性格だって、まったく違うだろうよ。
「おいおい、そんなイヤそうな顔をしてくれるな。お前と似ていると言われて、私は光栄なのに」
「別にそのことで、イヤそうにしているワケじゃないです。僕としては」
「波風を立てず穏便に、俺たちを別れさせたかったんですよね?」
言葉をさらうように、笹木が口を出してきた。
「香坂先輩がそこにメモを入れたのは、そういう理由があったからなんですよ。俺の気持ちを知ったから、安田課長と別れさせるべく、浮気の証拠を作った」
(ちょっ、何を勝手に話を作っているんだコイツ――)
「そうなのか、香坂?」
――違う。僕はこのふたりが揉めて、罵り合う姿を想像したかった……。
僕と同じようにボロボロになって、キズつくところを見たかっただけ。他の意味なんて、まったくないんだから。
一瞬目を伏せて、次の言葉を考える。
今1番キズついているのは、目の前にいる安田課長だ。そんな人に向かって、べたべた塩を塗ったくったりしたら、間違いなくそれを倍増した状態で、お返しをされるであろう。
それだけは、絶対に避けたい――。
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