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「これ、返しそびれてた」
広い腕の中に亜紀を抱き留めた高倉は、身を屈めると亜紀から借りていた箏爪を亜紀の胸ポケットに落すようにして返す。
その瞬間、亜紀の耳元を高倉の唇がかすめた。
「いつか俺のためだけに、歌ってもらうから」
「っ!!」
低く、亜紀の耳にだけ響く声は、亜紀の心拍を無駄にはね上げる。
「だから、俺以外に気付かれないように、俺の前以外では、お嬢様のままでいて」
高倉はそれだけ囁いて不敵な笑みを残すと、すんなりと部室を離れていった。
これ以上ないほどに赤面した、亜紀のことを残して。
「……っ、あんたのために、お嬢様やってるわけじゃ、ないんだから……っ!!」
……これから部活だというのに、どうしよう。
脳裏に焼き付いた、箏を弾く高倉の姿と、耳にした麗しい音色が、消えてくれない。
……これ、ソーラン節を演奏するたびに思い出せっていうのっ!?
今日だけで何回演奏すると思ってんのよっ!?
亜紀はその場にしゃがみ込むと、ペタペタと頬を触った。
熱をもった顔は、そんなことでは冷めてくれそうにない。
私はこんな展開、望んでないのにっ!!
こんな展開のために、お嬢様やってたわけじゃないのにっ!!
そんな亜紀の心の叫びは、他の部員が姿を現すまで続いた。
……沖のカモメに 恋時 問えば
わたしゃ立つ鳥、 彼 に聞け チョイ
ヤサエ エンサーノ ドッコイショ……
【END】
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