恋時ソーラン

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「ヤーレンソーラン ソーランソーラン ソーラン……」  のびやかで、波と空に吸い込まれていきながらも、どこまでも遠くまで響き渡る、力強い旋律。 「沖のカァモメっに 潮時問えばぁ  わたしゃ立つ鳥  波に聞けチョイ ヤサエーエンサー……」 「やっぱりあんた、上手いよな、ソーラン節」 「ひゃあっ!!」  気分はすっかりニシン漁だった亜紀は、突然耳元で響いた声に文字通り飛び上がった。 「でも、箏の腕前は、まだまだだよな」  今更我に帰って声の方を振り返ると、まっさきに目に留まったのは脱色した派手な髪だった。  襟足を覆うほどに伸ばされた髪の隙間に見え隠れする耳には、痛くないのかと思わず問いかけたくなるほど、たくさんのピアス。  腰履きのズボンに通された脚は、ヤンキー座りで器用にバランスを取っている。 「たっ……高倉くんっ!?」  進学校として有名なこの学校で、こんな派手な格好をした人間はこいつしかいない。  高倉陽(たかくら・よう)  亜紀と同じクラスで、こんな恰好からは想像もできないが、学年主席の座を思いのままにしている男。  お嬢様の化けの皮を被った亜紀は、自分のイメージを崩しかねないと思ってなるべく高倉には近づかないようにしていたし、高倉から積極的に亜紀に近付いてくることもなかった。  少し距離の遠い、クラスメート。  それが今までの亜紀と高倉の関係だ。  そんな高倉が、なぜ今ここにいるのか。  それよりも……  ……聞かれた………っ!!  今の、よりにもよって高倉に聞かれた……っ!!
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