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「『やっぱり』って、どういうことかしら?」
内心の動揺を押し隠して、亜紀は高倉を睨みつけた。
だが当の高倉は、亜紀に答えることなく、さらに亜紀の方へ身を乗り出してくる。
「ちょっ……
ちょっと……っ!!」
「五の絃、調弦狂ってんぞ?」
今にも亜紀の膝にのしかかりそうな勢いで迫ってきたくせに、高倉が指を伸ばした先は亜紀ではなく、亜紀が爪弾いていた箏だった。
「……へ?」
「あー……ていうか、全体的に?
ちょい、貸して」
しまいには、亜紀のことを押しのけて、亜紀の箏を占拠してしまう。
座布団から追いやられた亜紀は、目を白黒させながら後ろへ下がった。
お嬢様ぶるのを忘れた亜紀はあられもない姿をさらしているというのに、高倉はそんな亜紀に構わず、琴柱(ことじ)を丁寧に動かしている。
「ちょっと……ねぇ、高倉くん……?」
テンッと、箏が、麗しい音色を響かせた。
その音色に、ゾクッと亜紀の背筋が泡立つ。
「え……?」
同じ箏で同じように奏でたとは思えない、艶を纏った音だった。
箏爪をつけずに指先で軽く絃を弾く、ピチカットと呼ばれる奏法。
本人はただ何気なく爪弾いただけかもしれないが、それだけでも『何かが違う』と分かってしまう。
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