第1章

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「あはは、サク、あの驚き方は良かったよ。ベタで」 俺は出席番号29。さっきも言った通り後ろから2番目。 席は窓際の列の後ろから2番目。 その右隣の列の1番前の席から、コヘが笑いながら近づいて来た。 「うるせーよ。コヘ、お前の笑い声が1番響いてたぞ、この野郎」 「いいじゃん別に、面白かったし。掴みはバッチリ! 最高のスタートダッシュが切れたんじゃねぇの?」 そんなスタートダッシュが必要になるレースになんか、参加したくねぇ。 「まあ、どうせ、いつもの妄想にふけってたんだろ? 締まりのない表情が、一瞬で驚愕に変わる、あの瞬間……くっ」 笑いをこらえ切れてねぇぞ、コヘ。 よし、こんな奴ほっといて、寿君に野瀬君との馴れ初めを聞いて来よう。 「んん?あれ、どこ行くつもりだよ。サクのことだから、寿君と野瀬君辺りに声かけるんだろ? 野瀬はこっちだぞ?」 …………このお馬鹿さんが! コヘお前! 確かに席は野瀬君の方が若干近いけど! 寿君の熱烈な愛の告白(違う)を聞いてなかったのかよ!? 『野瀬ちゃんに手を出すな』 だろあれは! 新学年になって早々、風紀を敵に回す気か!!! 「なぁ野瀬くーん……って、それは?? 最近じゃあ売り切れ続出の本屋大賞20xx、大賞の作品!? えぇ!いいな! 読んでる途中だろうけど、面白い!?」 …………えぇー何あのテンション。俺、展開についてけない。 コヘが野瀬君に声をかけようと、机から離れてなかった野瀬君の方を向いたその次の瞬間には、ああなってた。 確かに野瀬君は今、ハードカバーの分厚い本を読んでたみたいだ。 あぁ図書委員でもあり、無類の読書好きのコヘのセンサーに、何かしら引っかかる本だったのか? 恐る恐る、俺は窓際から3列め、最後尾に座る、野瀬君の表情が見えるように、自分の椅子に座り直した。 ……相変わらず、眠そうな表情は変わっていないが、その目は真っ直ぐとコヘを見据えているようだ。 「ああ。とても、な」 コヘがさっき発した、面白いかと言う問いに対する答えだろう。 コヘの方は、あぁやっぱりなぁと、かなり納得しました、というような顔で頷いている。 「野瀬ちゃん、波並君となんの話してるのー?」
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