第1章

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出・た!!! いつの間に移動していたのか、寿君が野瀬君の背後に立っていた。 自然、コヘと向かい合う形になる。 ちょっとした緊張が、クラスに走る。 コヘは未だ得心いったと言う顔のまま。 寿君は、人懐っこい、それでいて隙のない笑顔を浮かべて。 「ん?……本の、話」 我関せず、正にその言葉通りに野瀬君が、寿君に答えた。 「そう、そう、本の話なんだよ!寿君!俺その作者さん好きでさ。 でもその本だけ持ってねぇの! くうぅ、羨ましいよ、野瀬君!」 コヘはコヘで……阿呆だな。 なんも考えてねぇや。 いや、好きな小説の話になるとテンション上がる奴だったけど、 『平凡』と言う俺からしたら名誉賞並みに価値のある称号を与えていたつもりだが…… KYキャラに転向させようか…… 「サク」 ……おぉう。 コー、お前もお前で、いつの間に俺の背後に回り込んでるんだよ。 素直に、ビックリしたわ。 お前廊下側の1番前の席だろう。 1番遠いトコじゃん。 「うん、だから苦労したよ」 なんでも、目立たないように移動するのに、予想以上に時間と気力を使ったらしい。 確かにコーの席近くに、如何にもコーに話し掛けたいですって、感じの生徒がチラホラいたもんな。 「で、サク、2人に話しかけないの? コヘがせっかく場をつないでくれてるのに」 ……あのお馬鹿さんが? 場を……? ………………。 …………あぁ! 確かに、寿君は、野瀬君に手を出すな発言をした。 それに逆らわないというか、それと敵対しないためには、 野瀬君に関わらないでいるか、 逆に話しかけて、寿君に自分は敵じゃない宣言をすればいい。 社交性の高いコヘのことだ。 無意識に、後者を選んだわけだ。 「OK?」 「Yes、OK、だ」 そうならば、善は急げ、だ!
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