第1章

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……美味かった…………。 もう、下手に学校帰りにダチと手ごろな値段のお好み焼屋に入れなくなるな。 全寮制の学園に通ってる時点で、そんなこと出来ないんだけどな。 そろそろ食事も終わるかと言う頃に、一人の生徒が俺たちの座っているテーブルに小走りで近づいてきた。 「青生様!こちらにいらっしゃったんですね!」 ふわふわでミルクティーのように甘い髪色、単色の黒ではなく明るい茶色の混じるクリッとした目、抱きしめたらクッションより柔らかいだろうと思われる小柄な体躯、コーを呼んだ声は男のものと辛うじて分かるぐらいに高くて甘い。 彼こそ、我らが先輩『心木 心(こころぎ こころ)』先輩だ。 「心先輩、お久しぶりです」 「青生様の微笑み!お美しい!春休み中お会いできなかった悲しみが嘘のように消えていきます!!!」 ……うん、言わなくても分かるだろうが、コーのファン倶楽部、部長を務めていらっしゃる…………。 ファン倶楽部なのに会長じゃないのか、ってのは単に生徒会長と呼び方が被ってしまうからに過ぎず深い意味はナッシン。 「それで、どうしたんですか? もしかして俺を探しにわざわざ来てくれたんですか? 言ってくれれば俺から向かえるんですが……」 実を言うと、午前中に授業が終わるから一段と食堂が混むだろう予想して、俺たちは図書館で適当に過ごし、時間をずらしてここに来ていた(おい誰だ、後付けだなって言ったやつ、出てこい全力の笑顔で『その通りだよ!』と言ってやる!……あ、俺の笑顔よりコーのがいいか) まぁ、だからこそ8人掛けのテーブルに3人で座れたんだけど、この時間帯に来るってことは、コーの言う通り心木先輩は食事が目的でもないんだろう。 「あぁ、青生様、青生様に関わる事柄に『わざわざ』なんてことはありません!全て僕たちが望んでしていることなので、お気になさらないでください!」 あぁ、青生様、なんてお優しいんだろう! と、胸に手を当て感動に目を潤ませる心木先輩。 ちなみに俺とコヘは絶賛空気、だ。 むしろ進んで空気になりに行ってる。 心木先輩の愛の眼差しの中で光を放つのはコーだけ。 俺たちも視界のなかで認識はされるが、それはコーの光を遮る障害物として、だ。 俺も1年の時、青生小日向ファン倶楽部に入部しているが、友人としてコーの隣にいることは、やはり先輩の気に障るらしい。
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