第1章

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食堂を出て、寮と反対、校舎側に伸びる廊下へ歩き出す心木先輩。 黙って付いて行く。 さっきは売り言葉に買い言葉。 心木先輩も俺も本気じゃないから、ポンポンとただ言葉を発しただけ。 たまにコヘが、心木先輩のコーの前での態度と、俺やコヘに対する態度の変わりようを指して『二面性』だと言うが……俺は、それのどちらも『表』、だと思う。 心木先輩の本当の2面。 絶対に青生には見せないだろう『裏』 それは、こんな風に、黙りこくってる時その物。 声を出さない、音によって意思表明をしない心木先輩の『内側』は俺たちには、計り得ないし、分かり得ない…… 「山中、お前、情報屋って知ってるか?」 廊下の曲がり角、誰もいないから電気なんて付いてなくて、窓からも適度に離れていて、昼間なのに絶妙な暗がりが生まれている。 そんな場所で立ち止まって、心木先輩が口を開く。 「情報屋ですか、そんなもんいたら萌を隠れてひっそり見物出来る絶景ポイントの情報を言い値で買いますよ……」 「知らないんなら簡潔にそう言え」 えー、心木先輩の声ってホント理想の受って感じなんですけど、その可愛らしい声で冷たいセリフとか、Mな攻との絡みを妄想出来て、ホント美味しいんですよね。 出来るだけ色んなバリエーションを聞いておきたいっていうか…… 「うす、さーせん!そんな方存じ上げておりません!」 なんて、まあ言える訳もなく。 バックにブリザードの見える心木先輩に、速攻で謝る。 「つっかえねぇ……と、言いたいところだけど。僕も倶楽部の子たちも知らないみたいだし、しょうがないか」 「もう、声に出していらっしゃる……まぁ、噂は聞いてますよ。そう言う奴が確かにこの学園に存在しているらしいっていうだけなんですけどね」 本当にそれだけ。いるらしいよ、って。 「うん、その噂しか知らないから僕もお前に聞いたんだよ」 「でしょうね。でも、急にどうしたんです? 情報屋さんに何か用事でも?」 心木先輩の顔を窺おうとすると…… 「見下ろしてんじゃねぇ、山中の癖に」 「理不尽!」 脛を蹴られた。痛い。地味に、とかじゃなくてガチ目で痛い。 「うぅ、足が異体……」 「何言ってんの? ……ま、他の部員にも言ってるからいずれお前にも言うつもりだったけどさ」 呆れ顔で、脛を抑えて蹲る俺を見下ろして、心木先輩が言う。
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