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数日間降り続いた梅雨の長雨も嘘のように上がり。久しぶりに顔を見せた太陽は、うっぷんを晴らすかのように、大地を照らしつけている。
気温も六月の下旬にしては涼しく、季節が一つ戻ってしまったように感じられた。天気予報によると、この晴天は、あと四、五日続くようだ。
「おはよ~。ちゃんと勉強した?」
登校中の和磨の背後から、自転車に乗った寺音がさっそうと現れた。
徒歩の和磨にあわせ速度を落とす。
「よお、寺音。今日は蘭と一緒じゃないのか?」
いつも目の敵にされバイ菌扱いしてくる蘭の不在に、和磨は安堵の表情を浮かべるが、うっかり寺音の地雷を踏んでしまった。
「もう! 寺音って呼ばないでよ。名前で呼ぶの、和磨だけなんだからね」
「別にいいだろ? 小学生の時は名前で呼んだって何も言わなかったくせに」
「いつの話をしてるのよ。私がこの名前嫌いなの知ってるでしょ」
「たしか、寺音のおやじさんが考えたんだっけ? 神社の娘に寺って字を入れるなんて、なかなか洒落が効いてていいと思うけどな。ははははは」
「…………」
能天気に笑う和磨をギロリと睨み、寺音は無言の圧力をかけている。
「うっ、いや、あ、あのさ」
恐らくこのパターンだと、三日間は口をきいてくれそうにないだろう。
和磨がたじろいでいると、同じクラスの光条すず子(こうじょう すずこ)が現れた。
「おはよ、月ちゃん……あと、和磨くんも」
寺音の隣に自転車を並走させるすず子は、恥ずかしそうに笑みを浮かべている。
クラスでは一番小柄でおとなしく、かなりの人見知りであった。
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