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当時は『こんな田舎町に、ここまで立派な高校を建てる必要があるのか』と、懐疑的な意見が、続出していたのだが。
蓋を開けてみれば、この地域はもとより、近隣の市や郡からの入学希望者が殺到し。改築前の倍以上にもなる九百人を超える生徒が集まったのである。
「おーい。和磨ーっ、基成くーん」
ようやく駐輪場に近づいた頃、背後からの声に和磨たちは振り返った。
似たような暖色系の傘を差し、似たような背格好の女子が二人、小走りで駆けてくる。
同じクラスの月日寺音(つきひ しおん)と司蘭(つかさ らん)だ。
人懐っこそうな笑みを浮かべる寺音は、ショートの髪型に瞳も大きく、可愛らしい顔立ちをしている。
一方、嫌悪感丸出しで和磨を睨む蘭は、黒髪を後ろで結び、キツイ性格が見事に反映されているキツネ顔であった。
「おおっ。いいところに来たな。つっきーたちもカラオケ行かない?」
基成がにこやかに手を振る。
それを聞いて、すかさず和磨が口を挟んだ。
「も、って。俺は行かないからな」
「ははは、さすが基成くんは余裕だね。真面目に勉強したら学年一位狙えると思うよ。私は勉強しないとヤバイんだ。また今度誘ってね」
軽く受け流す寺音の横では、蘭が相変わらず和磨を睨んでいる。
「ねえ、和磨? 自転車はどうなったの?」
「壊れたままだよ。そのうち新しい自転車買ってやるから、それまで歩けってさ」
寺音の問いに、そっけなく和磨が答える。
「よかったら、帰る方向が一緒なんだし。途中まで一緒に帰らない?」
「え? 乗せてくれるのか?」
「ダメよ、つっきー! この男に身体を触れられるなんて危険過ぎるわ! 自転車を持たないのは、こいつの作戦よ」
ピシャリと蘭が拒絶する。
「蘭、注意するとこはそこじゃないでしょ」
やれやれといった顔で寺音がツッコんだ。
どういう訳か、和磨は蘭に嫌われていた。寺音との仲を事あるごとに邪魔しようとするのだ。
親衛隊のように寺音の純潔を守る蘭にとって、寺音と幼馴染の和磨は要注意人物なのだろう。
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