【6月18日】 最後の日常

6/8
前へ
/107ページ
次へ
 四限目終了のチャイムからほどなくして。  校内は生徒たちの姿が無くなり、不気味な静けさが訪れた。雨脚は弱まりつつあるが、止む気配はなさそうだ。  放課後は部活に勤しむ生徒たちで賑わうはずの部室棟も、今日は鳴りを潜めている。  しかし、誰もいないはずの部室棟に五つの人影があった。  その影は人目をはばかるようにして、バスケ部の部室へと入っていく。 「……さてと。冬彦、今月の分を出せよ」  長身の男子生徒が部室の鍵をかけ、気の弱そうな男子生徒に詰め寄った。  床にはバスケットシューズの片割れや、バスケットボールが乱雑に転がっている。 「も、もう、僕。お金がないんだ……」  カバンを大事そうに両手で抱え後ずさる男子生徒は、和磨たちと同じ三年八組の闇延冬彦(やみのべ ふゆひこ)であった。  身長はそこそこあるのだが、運動をしても筋肉が付きにくい、貧相な身体つきである。 「ああ? そんなことは聞いてねえよ。お前も元バスケ部だったんだからよ。俺らに納税する義務があんだぞ、こら!」  身長百八十センチを超す男子生徒四人が、冬彦を取り囲む。  入学してすぐの仮入部が、冬彦にとって運の尽きだった。  見るからにひ弱な冬彦が、この同学年の四人組みに、目を付けられてしまったのだ。  はじめはパシリ程度に使われていたのが、二年の夏休みあたりから、次第に金銭の要求が激しくなっていった。 「ほ、本当にもう無いんだよ。貯金してたお金だって全部……」  消え入りそうな冬彦の声に、バスケ部員たちの眉が吊り上る。 「知らねえっつってんだろ! 無けりゃ親の財布から盗んで来いよ!」  バスケ部員の一人が冬彦の胸ぐらを、ボタンを引きちぎる勢いで掴み寄せた。  その拍子で冬彦の抱えていたカバンが床に転がる。
/107ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加