セオドア・マクラーレン

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「みんな名前はあるものよ。こっちはクリス・ブラウン。私の幼馴染よ。そして私は…」 「ダニエル!」 シスターテレジアの叱責にはっとダニーは息を飲む。シスターテレジアの目線はするどく、ダニーと少年を貫いた。 「私たちは神に仕えるものとして隣人を見捨ててはおけない。だが、一つ約束してほしい」 一瞬間を置いてシスターは周囲を見渡す。 「この方、ダニエル・ジョージ・アイリーン・ダグラス様のことは何も聞いてはならぬし話してもならない」 ダグラス…この国の名前を冠したこの幼女は王族なのだとすぐに分かった。 しかもミドルネームの前王の名は彼女がその娘なのだということを表していた。 獅子王と呼ばれた前王の死後、ダグラス王国は荒れ果てた。民が苦しんでいる中、王族はみな宮廷で優雅な生活をしていると思っていたのに… 目の前の幼女はシンプルな小さい修道服を着て髪も結い上げない地味な装いだった。 その答えは一つ。 ダニエルは宮廷の勢力争いに負けたのだ。 少年は悟り静かに頷いた。 「どうぞ、敬虔なる修道女様方よ、この哀れな私をお助けください。」 シスターテレジアは無言で歩き出した。 眉根を寄せて黙りこくってしまったダニーを筆頭に一同は教会へ向かった。クリスが沸かしたお湯で身体を清めると、小さな食堂に招かれた。 湯気の上がる温かいジャガイモのスープとライ麦パンが二切れ置いてあった。安堵のあまり少年の目に涙が浮かんでくる。 夢中でパンを貪りスープをすする。そんな様子をシスターテレジアは腕を組んでじっと見守る。その迫力に少年は肩をすくめる。そんな2人にダニーは薔薇色の頬を緩める。幼いながらも優雅な仕草からはダニーの育ちのよさがわかった。 「かわいそうな少年…しばらくここで世話になるといいわ」 優しくダニーは呟く。 そしてクリスはダニーをちらっと見て不服そうな顔をしていた。 「クリスは嫌なの?」 「嫌なわけはありません」 さっとクリストファーは優美な笑顔を浮かべる。きっとクリストファーも貴族の子息だろう。しかし、善意の塊のようなダニエルと比べるとクリストファーは何かある… 少年の勘が警鐘を鳴らしていた。
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