セオドア・マクラーレン

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壁一面に本棚が埋め込まれ、古今東西の本がぎっしりと詰まっている。天窓からは光が差し込み薄暗い屋根裏部屋を照らしている。陽だまりのような古びた本の匂いが充満するこの部屋に3人はいた。 「この方にしましょう」 ダニエルは家系図を広げ、端を指差した。生まれてすぐ死産になった赤ちゃんを最後にその家系は途切れていた。 「セオドア・マクラーレン。旧ノースクロス地方を治めていた豪族の末裔よ」 「ダニー様、なんのお話しですか?」 さらさらの栗毛が家系図に落ちる。それほどまで顔を近づけていたことにクリストファーは気がつき顔をあげた。 「ここにいるには名前がないと困るの。とりあえずこのマクラーレンのご子息の名前を借りておきなさい。」 「ありがとうございます」 この瞬間、彼はセオドア・マクラーレンという名前で生きていくことに決まった。 「なんで豪族の名前をわざわざ…」 クリストファーは不満そうな顔をする。ダニエルは一瞬言葉につまる。 「身分のわからないものを周りにおかないっていうのは…伯父様との約束だから」 秘密にしてほしい、と言いながらダニエルは話しはじめた。 ダニエルの父、ジョージは指導力にすぐれており、その豊かな金髪から獅子王と呼ばれていた。ダニエルの妻メアリー・クルッフェンシェルドは公爵家の娘であり大変プライドが高かった。派手好きなメアリーと国民思いで質素堅実なジョージはあまり歩調が合わなかった。 そんなジョージはある日の舞踏会でブラウン男爵の娘である、 アイリーン・ブラウンと出会う。美しく、前向きな彼女にジョージは一目で恋に落ちた。 アイリーンの身分は低くメアリーを始め周囲の貴族たちはアイリーンを側室にすることに反対した。 しかし2人の間にダニエルが生まれ、周りも認めざるを得なくなった。メアリーの産んだ皇太子エドワードは身体が弱く、エドワードとダニエルの他にはジョージの子どもは生まれなかった。 獅子王と慕われるジョージの金髪を譲り受けたダニエルにメアリーは激しく嫉妬し殺害まで試みた。危うく思ったジョージはブラウン家にダニエルの警護を頼む。 ブラウン家はダグラス王国の特産である金細工で一財を築き上げている豪商であり、庶民の出ながらも男爵の地位を与えられていた。 ダニエルの伯父にあたるブラウン男爵は大事な姪を守るため警備に50人の兵と最愛の息子クリストファーを送り込んだ。
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