セオドア・マクラーレン

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だが、ダニエル7才のとき事態は急変した。前王が逝去したのだ。 さすがに王存命の時は手出しできなかったメアリーも王の死後は皇太子の母として国を仕切りはじめた。1年もたたない間に各地で反乱がおきはじめ、民は飢えるようになった。 ダニエルは邪魔者として宮廷を追われ、ブラウン家の領地にあるラベンダーズバリーの教会に修道女として身を潜めた。 なるほど、とセオドアは思った。成り上がりのブラウン家からすると王位継承権を持つダニエルが大事であろう。だからダニエルの身辺はできるだけ安全な人物で固めておきたいのだ。自分の出自が必要な理由がわかった。 しかし、とセオドアは疑問に思う。 「ダニエル様は今後どうされるおつもりなんですか」 その質問にダニエルはキョトンと大きな目で瞬く。 「もちろん、修道女になるつもりよ。宮廷は恐ろしいところだったし、もう戻りたくないわ」 ダニエルの話を聞きながらクリストファーは整った唇を震わせる。 「ダニー様は悔しくないのですか!あんな無能な女に亡きジョージ様の国はむちゃくちゃにされて、もう2度と生家にも戻れないなんて!」 ダニエルは柳眉を釣り上げる。 「なんて言い草なの。あの方は私の母で国母なのよ。」 「だったらなんでいつも泣きそうな顔をしているんですか」 「…!」 ダニエルの目はこぼれそうなぐらい見開かれる。クリストファーはダニエルの手をとり畳み掛ける。 「本当は帰りたいんじゃないんですか?」 「クリス…!」 クリストファーの優しくも厳しい一言はダニエルの胸に突き刺さった。 ダニエルはぱっと手を振り払いふらふらと後ずさりした。血の気の引いた唇がパクパクと音にならない動きをした。 思わずセオドアは駆け寄りダニエルを支えようとする。しかし、ダニエルはそれを拒否する踵を返すと外に出て行った。 彼女の立っていたところには涙が一粒こぼれていた。セオドアは伸ばした手をゆっくりと下ろす。 クリストファーは眉根を抑えた。 そして舌打ちすると上品な顔に似合わない悪態をついた。そしてバツが悪そうな顔でセオドアを見る。 そして小さくため息をついた。
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