セオドア・マクラーレン

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子どもたちとダニエルの様子を見ていたシスターテレジアが小さくつぶやいた。 「あの方が来るまではこのラベンダーズバリーにはだれも礼拝には来なかったのさ。 あたしには愛想がないからね。」 「いえ…」 なんと答えたらいいのか分からずセオドアは口を噤む。 最初こそ、厳格な雰囲気に圧倒されていたがシスターテレジアは神の道に相応しい堅実な女性だった。厳しいだけではなく、セオドアを助けてくれたり夜中に起きて本を読んでくれたりと愛情あふれる面も持ち合わせてた。 シスターテレジアの優しさは子どもたちにも伝わっているようだ。教会にくるなり子どもたちが自慢げに渡してきた滑らかで光る石をシスターテレジアは大事そうにかごにいれた。 「ダニエル様が来てから子どもたちもあたしに心を開くようになったんだ。ダニエル様に会いに子どもたちが来るようになっても最初は怖がられていたんだ。こんな性格だから厳しく躾けようと思ってよく叱っていたからね。」 懐かしそうにシスターテレジアは語る。 「じゃあ、もう叱るのをやめたんですか」 「いいや、子どもは叱らないとわからない時があるからね。今でも悪いものは悪いと教えている。 ただ、ダニエル様に言われたんだ。叱ったならあとで同じだけ子どもを抱きしめなさいって。」 見ればダニエルにぎゅっとしがみついた子どもを彼女は優しく撫でている。その様子を見ながらシスターテレジアは柔らかい表情を浮かべた。 「まだまだ若いのに素晴らしい方だよ、ダニエル様は。」 この優しい方が国王であればよい。そんなこと思うだけでもおこがましいことは分かっている。 でも日に日にセオドアの願いは強くなっていった。 ダニエルに政治や兵法を教えようとしたことも多々あった。その度にやんわりとダニエルは拒否した。 「私には関係ないよ、こんなの」 自分でも学んでくれれば、とその中でも少しでも興味が沸きそうなものを選ぶうちにセオドアの頭の中にはかなりの兵法が上書きされていった。 日課となった兵法の図書めぐりをしている時、ふと背中に目線を感じた。ついと後ろを向くと鎖帷子に身を包んだクリストファーがいた。 手を出せと言われ右手を差し出すとクリストファーがその手に剣を握らせる。 「実践したくなっただろう。僕と試合をしてみないか。」 美しい顔には不敵な笑みが浮かんでいた。
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