届かぬ声

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父からはラベンダーとローズマリーの混ざった爽やかなで心地よい香りがした。 「もうすぐ着くぞ」 自分と同じ太陽色の髪が肩をくすぐる。ダニエルと獅子王ジョージを乗せていた白馬は?く。 この辺りで1番高い場所に連れてきてやったと父は言う。 後ろを振り向くと、風が草原をなぎ、足元には煌びやかな街が広がっていた。 ダニエルは息を飲む。 「美しいだろう、パールズベイは。」 大きな手がダニエルの頭を撫でる。 「全て私が作った。」 「お父様が…?」 頷く父を金色の風が包んだ。ダニエルは誇らしい気持ちになる。 この立派な父の血を私もひいているんだ。 目下に広がる都市を眺める。遠くの方に煙のあがる山が見えた。 「あそこも、お父様の土地なの?」 「いや、今はイーストベイは我らの土地ではない。今度の戦で手に入れるが」 獅子王と呼ばれる獰猛な父は武人の顔になり力強く断言した。 「私の夢はこのダグラス王国、そして隣国の治安悪き混乱の土地をおさめ、民を幸せにすることだ。 その手段として、戦がある。」 分かるな、という父の言葉に頷く。父の凄さは家臣からよく聞いていた。 「ダニエル、愛しき我が子よ。 戦争の続く世の中だ。私もいつまでこの世にいられるか、分からぬ。」 「お父様ともう会えなくなるの?」 父は首を振り、ダニエルの手をとる。そして小さな胸にあてた。 「私はここにいるだろう。お前が忘れぬかぎり、私はお前の心の中にいる。」 大きな手が触れた部分が暖かい。 「私の言葉を、行動を胸に刻み込め。私の肉体が消えたらお前の心の中で私を探せ。 お前が次の王だ。」 思いがけない言葉にダニエルは瞠目する。 「私が…?」 父は柔らかく笑う。 「王に1番必要なことは民の信頼を得ることだ。お前はアイリーンに似て人を惹きつける魅力がある。必ずや民に慕われる王になろうぞ。」 父に褒められると誇らしいような恥ずかしいような言い表せない気持ちになった。 「ダグラス王国にふさわしい王になれるようにがんばります。」 健気なダニエルの言葉に父は相好を崩した。 「なれるさ、私の娘よ… さぁ、寒くなる前に帰ろう。」 傾き始めた太陽は親子の髪を鮮やかな金に描いていた。
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