届かぬ声

3/6
前へ
/40ページ
次へ
父は戦へと旅立つと同時に、ダニエルの元へは義母がやってきた。 豊満な身体を宝石やドレスで着飾った彼女はため息をついた。 「あーやだやだ、汚いったらありゃしないわ」 父の不在を寂しがったダニエルに父は自分が幼い頃に着ていた服を与えた。 確かに古く、シンプルであったが、上質な綿でできた良い品だった。 「ガリガリで貧相でおまけに臭いのね。野蛮な女の娘はやっぱり下品ね。」 おっしゃる通りで、と義母の取り巻きである若い男たちが笑う。 義母は男たちにしなだれがかった。特に赤毛のアルバートという男がお気に入りのようだ。 ピシッと義母の扇がダニエルの頬を打つ。 「暇なら掃除でもすれば?ちょっとはブサイクもマシになるんじゃない このままだと1人でさみしく死ぬことになるわよ」 「ゴミの臭いで余計臭くなるじゃないですか」 アルバートがにやにやと義母の顔色を伺いながらいい、義母は声をあげて笑った。 打たれた頬よりも心が痛かった。 「何黙っているのよ。金髪だからって生意気ね。」 ダグラス王国では金髪は珍しい。王族だけが金髪を受け継いでいるのだ。 義母の髪は金とは言い難い黒髪で、その息子であるダニエルの兄は燃えるような赤毛だ。 そう、まるでアルバートのような。 ダニエルは思わずアルバートと義母の後ろに隠れている兄を比べてしまう。 似ている… ごくりと生唾を飲み込んだ。 胸に衝撃が走る。 アルバートの足がダニエルを蹴り飛ばしていた。 「ジロジロみるんじゃないよ、変態が。あんたもあんたの母みたいに男とみればすぐ媚びを売る」 「ダニエル様!」 心配そうにその様子をみていたクリストファー・ブラウンが駆け寄る。 ダニエルの目からは涙がこぼれてきた。 義母はダニエルを軽蔑する目で見て、クリストファーに目を移して固まった。 ブラウン一族は美形ぞろいだ。幼いとはいえ、クリストファーもブラウン一族特有の長いまつげと艶やかな肌を持ち合わせていた。 義母はにやにやとクリストファーの手をつかむ。 「あたくしの小姓にならない?お金もいっぱいあげるわよ。このうだつのあがらないブスよりよっぽどいいと思うわ」 「お断りします。ダニエル様行きましょう」 立ち去るクリストファーとダニエルを義母はにらみつける。 「絶対ものにしてやる…」
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加