1人が本棚に入れています
本棚に追加
ダニエルは温かい風呂を沸かしてくれていた。お湯に垂らされたアロマオイルが柔肌に染み入る。
「お父様…さみしい…」
その匂いは父のコロンのようだった。
ブラウン家の人々が色々と世話をしてくれるも、公爵家生まれであるメアリー親子との扱いの差は歴然だった。父でさえ、公爵家には強気で出れないのだ。
母、アイリーンが望まれない形で嫁入りしたのもダニエルは知っている。でも、父は自分をこの上なく可愛がってくれている。
そんな父をダニエルも尊敬し、後をおった。仕草、言葉遣い、作法、剣の持ち方に至るまで父になりたくて真似をした。
「ダニエル様は小さい陛下みたいですね。」
クリストファーの母である、マーガレットはそんなダニエルを見て微笑んだ。
「でもお顔立ちだけはアイリーンそっくりですのね。」
ダニエルは母を知らない。アイリーンはダニエルを産んだ後産後の肥立ちが悪く亡くなったという。
今まではマーガレットが乳母としてダニエルを育ててくれた。
文武両道を目指して厳しく教育してくれている。
今、王位継承権1位は兄である。ダニエルは兄がいる限り、王になることはない。
しかし、ブラウン家の人々は希望を捨てきれないのか、ダニエルに王としての教育を施した。
幼いダニエルには王となる意味はよくわからなかったが、父に近付けると思い一生懸命鍛錬に勤しんだ。
お風呂から上がって考え事をしていたダニエルをクリストファーは心配そうに見ていた。
「嘘ばっかりでしたね。ダニエル様はこんなに清楚で美しいのに。」
クリストファーの言葉は虚しく聞こえた。あんなにダニエルの容姿を否定していたメアリーもクリストファーの姿には心を奪われたようだ。従兄弟なのに大違い、とはブラウン家以外の人達にはよく言われる。
「親戚の欲目だろう。…私はお義母さまの言われたことなど気にしていないが」
ダニエルは低くつぶやく。
そして部屋の外を見やった。
いつお父様は帰って来られるのだろうか…と
帰って来られたら、お父さまが小さい頃に使っていたという、フェンシング1セットを使って稽古をつけてもらうのだ。
王宮に居場所がなくても父がいる限り、ダニエルは安全だった。
事態が急変したのは翌朝のことである。
最初のコメントを投稿しよう!