届かぬ声

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ダニエルは温かい風呂を沸かしてくれていた。お湯に垂らされたアロマオイルが柔肌に染み入る。 「お父様…さみしい…」 その匂いは父のコロンのようだった。 ブラウン家の人々が色々と世話をしてくれるも、公爵家生まれであるメアリー親子との扱いの差は歴然だった。父でさえ、公爵家には強気で出れないのだ。 母、アイリーンが望まれない形で嫁入りしたのもダニエルは知っている。でも、父は自分をこの上なく可愛がってくれている。 そんな父をダニエルも尊敬し、後をおった。仕草、言葉遣い、作法、剣の持ち方に至るまで父になりたくて真似をした。 「ダニエル様は小さい陛下みたいですね。」 クリストファーの母である、マーガレットはそんなダニエルを見て微笑んだ。 「でもお顔立ちだけはアイリーンそっくりですのね。」 ダニエルは母を知らない。アイリーンはダニエルを産んだ後産後の肥立ちが悪く亡くなったという。 今まではマーガレットが乳母としてダニエルを育ててくれた。 文武両道を目指して厳しく教育してくれている。 今、王位継承権1位は兄である。ダニエルは兄がいる限り、王になることはない。 しかし、ブラウン家の人々は希望を捨てきれないのか、ダニエルに王としての教育を施した。 幼いダニエルには王となる意味はよくわからなかったが、父に近付けると思い一生懸命鍛錬に勤しんだ。 お風呂から上がって考え事をしていたダニエルをクリストファーは心配そうに見ていた。 「嘘ばっかりでしたね。ダニエル様はこんなに清楚で美しいのに。」 クリストファーの言葉は虚しく聞こえた。あんなにダニエルの容姿を否定していたメアリーもクリストファーの姿には心を奪われたようだ。従兄弟なのに大違い、とはブラウン家以外の人達にはよく言われる。 「親戚の欲目だろう。…私はお義母さまの言われたことなど気にしていないが」 ダニエルは低くつぶやく。 そして部屋の外を見やった。 いつお父様は帰って来られるのだろうか…と 帰って来られたら、お父さまが小さい頃に使っていたという、フェンシング1セットを使って稽古をつけてもらうのだ。 王宮に居場所がなくても父がいる限り、ダニエルは安全だった。 事態が急変したのは翌朝のことである。
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