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ジョージの死から3ヶ月後、ダニエルは白馬に乗り夜の山をのぼっていた。
使用人が着るような質の悪いイラクサのローブを髪の毛が目立たないよう深く被る。その手には最小限の荷物が握られていた。
父の残した一対の剣は長剣を腰に差し、短剣は布に包んで荷物の奥底にしまい込んだ。
前後にはブラウン家の雇った傭兵が、左右にはクリストファーと父であるアンソニーブラウンが歩いていた。
いつもは明るいブラウン親子は何も話さず、うつむき黙々と歩く。
クリストファーが舌打ちした。
「…なんで、ダニエル様がこんな目に会うんだっ!」
「静かにしろ、追っ手に気がつかれるな」
アンソニーは定期的に後ろを振り向く。その大きな背中には柳の木でてきた弓と黒鷲の矢の詰まったかごを背負っている。
夜の森は木がざわめき、梟の悲しい鳴き声が響いていた。
真剣な眼差しでアンソニーはダニエルをみる。
「必ず貴女の時代が来る。時期が来るまで姿を隠し、力を貯めるのです。
外へ出るときは話し方、仕草、表情、全てに気を配ってくだされ。
必ずやクリストファーがお役にたちましょうぞ」
クリストファーは目元を赤くして強く頷く。
教会の明かりが見えてきた。
アンソニーはクリストファーにも聞こえないぐらい小さい声で言う。
「これからは修道女を目指すふりをしてください。王座に興味がないかのように」
寂れた扉が開かれる。ダニエルは馬をおりると手綱をアンソニーに渡した。
白馬はダニエルに額をすりつける。
王宮のある方向を振り返る。
「さらば、真珠の都、パールズベイよ」
※※※
汗だくになってダニエルは目覚めた。手の先が震えている。
むかしの嫌な思い出を夢にみた。
故郷への思いをたち切るようにダニエルは頭をふる。
こんな夜はいつも、父の短剣を研ぎ油を塗ってすごす。
今日も眠れなさそうだ。
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