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なぜ最近子どもたちは来なくなったのだろうか。
そう尋ねるとクリストファーとセオドアは一瞬言葉に詰まった。
言いにくそうにクリストファーが告げる。
「父上に聞いたのですが、デンス自治区のフーバー卿が挙兵したようなのです。」
デンス村はデンス系の血を引く民が居住しており、フーバー一族が王としておさめていた。100年ほど前にダグラス王国の植民地になっていた。しかし、ジョージは自治性を重んじ、フーバー一族にデンス自治区の統治をほとんど任せていた。
「どうやらエドワード様の代になって徴兵を課すようになったようです。住民の不満が高まり、フーバー卿は独立することを考えられているらしいです。」
フーバー…どこかで聞いたことのある名前だ。ダニエルは記憶を巡らすが思い出せない。
「兵の数はどれくらいなの?」
セオドアが顔を曇らせる。
「20万は固いかと。デンスの民は狩猟系民族ですので、実戦に慣れております。…ラベンダーズバリーに攻め込んで来るのも時間の問題かと」
クリストファーもため息をつく。
「私たちは女子どもは疎開させたのです。今町中から志願兵を集めています。こんな状況なのにエドワード様は援軍も下さらない。」
というよりも各地で暴動がおき、援軍など送れない状況なのだ。
「おそらくはデンスの民の力を借りて暴動を平定するつもりだったのでしょう。しかし、一旦自由を得たデンスの民には再度の支配は耐えられなかったのだと思います。」
王宮騎士団では兵の数も足りず、デンス村は自治どころかダグラス王国を吸収する勢いになることは想像に難くない。
「ダニエル様ならこの状況をなんとかできるのに」
意外にもそうつぶやいたのはセオドアだった。予想外の発言にダニエルは目を丸くする。
クリストファーもはっとセオドアを見る。
「そうだな…私もそう思う。」
気の強い口が結ばれる。
月明かりが少年2人を照らす。優雅な仕草でクリストファーが膝をつき、セオドアは両膝と頭を地につけた。
ダニエルは戸惑い、後ろへ下がった。
「我らの剣と知力と命の全てを貴女に捧げます」
「ダニエル殿下、ダグラスの民をお導きください」
クリストファーが頭を下げると、セオドアはダニエルの靴にキスをした。
2人の言おうとしていることがわかった。足が震え、立てない。
「…今の私には無理よ」
「私たちは必ず貴女を助けます」
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