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少年達はダニエルの名前を呼び、修道着の裾にすがりつく。教会の片隅にある自室でダニエルは押し黙った。
私もかつてこんな感じで父にすがりついた。…父が死んだ時に…
蓋をしていた記憶に頬を涙が伝う。死の前の父の声が響く。
はっと、ダニエルは顔をあげた。長い金髪が背中へ落ちる。
「…フーバーとはアルベルト・フーバーのことかしら…」
父の死を心から悲しんでくれたあの男か。クリストファーが静かに頷いた。
なぜ、挙兵したのだろうか。
「お父様のことは信頼していたのにお兄様のことは信じられないのね。きっとダグラスに忠誠を誓ったんだわ。」
「エドワード様だってダグラスの正統な後継者じゃないですか。」
セオドアにクリストファーは言う。
「テディ、それは違う。あいつは…」
「言わないで、クリス」
ダニエルは珍しく大きな声をだした。薄々、エドワードはジョージの種ではないと王宮の皆が気づいていた。
メアリーの残酷さを前に誰も指摘する勇気はなかった。
「おそらく、フーバー様はダグラスの正統な王を求めているのかと。それはダニエル様だけです。」
「…私だって正統な王にはなれないわ。私の半分は庶民よ…!」
セオドアはダニエルのフードを取り去った。豊かな金髪が滝のように流れる。
クリストファーが金髪を一筋とりキスをする。
ダニエルは泣きそうな顔をした。
「ここにダグラスの魂があるではないですか」
はっと父の言葉が蘇る。
そうだ、私の中には父の魂が宿っている。恐ろしいけれど父を信じてくれたアルベルトのため、ラベンダーズバリーの子どものため、ダニエルの心は固まった。
「クリストファー、私の服を脱がせなさい。セオドアはあの赤い箱を開けて中身を持って来なさい」
クリストファーはゆっくり生唾を飲み込んだ。震える手が背中の紐にかかると、修道着がはらりと床に落ち、ダニエルは下着姿になった。細く白い身体が浮かび上がる。
セオドアの手には古い騎士服と布に包まれた細長い物体があった。
ダニエルは騎士服を身にまとう。胸にはダグラス家の紋章である獅子が描かれていた。男装なのになぜか艶めいた様子のダニエルにセオドアも息を飲む。
細い指が布をほどいていくと宝剣が現れた。鞘から引き抜かれ鋭い剣先が光に反射する。
ダニエルは目をつぶると首に剣を押し当てた。
「…!」
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