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プチプチという音と共に金髪が宙を舞った。
ダニエルの手には長い髪が握られ、頭を振るとざんばらになった金髪が広がった。それはまるで金の獅子が野生の中に現れたようだった。
ダニエルは大きく息を吸い込むと、髪の束をランタンの火にくべた。顔をあげる頃にはいつもの柔和な顔から騎士の顔になっていた。背筋を伸ばし、別人のような低い声でダニエルは告げる。
「私の心にはいつも父が共にいる。クリストファー、セオドア…
私に力を貸してくれ」
ジョージが残した騎士服は今のダニエルにぴったりと合っていた。
セオドアはダニエルの豹変におどろきのあまり声も出せない。
髪が焼けるチリチリという音に顔をあげたクリストファーは思わずつぶやく。
「陛下そっくり…」
顔は全く似ていないのに、仕草や雰囲気は前王を思い出させた。
「あぁ、今日から私は獅子王の仮面をかぶる」
「その話し方もそっくりです」
ふっとダニエルが笑う。
「似ているのではない。記憶の中の父上に似せているのだ。
クリストファー、早めにブラウン家に志願兵を集めろ。
セオドアはデント地区へのルートを調べよ」
「御意でございます。」
2人はダニエルに圧倒され、頭を下げた。
※※※
シスターテレジアが心配そうに見守る中、ラベンダーズバリーには5万の兵が集まっていた。
「ダニエル様、正気?相手は20万は超えるらしいけど…」
ダニエルはシスターテレジアの手をとると、小さい声でささやいた。
「大丈夫よ。クリストファーとセオドアがいてくれる限り勝機はあるわ。」
シスターテレジアの手には横笛が握られていた。
「これを持って行きなさい。狼よけに」
狼どころではない、とクリストファーは内心思った。しかし、ダニエルは優しく微笑んだ。
「ありがとう、シスター。お世話になったわ。ここで過ごした月日のことは決して忘れない。」
名残惜しく手を離したシスターに背を向けたダニエルの顔は騎士のものになっていた。
クリストファーとセオドアが丘で控えている。ダニエルは丘にのぼると、頭を覆っていたフードを取り去る。金色の髪が風に揺れると、兵がどよめく。
「だれだ?」
「ジョージ様なのか?」
静かになるのをじっと待つとダニエルは告げる。
「ダグラスの民よ、祖国のために立ち上がろうぞ。」
歌声のような響く心地よい声がラベンダーズバリーを覆った。
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